美しい砂漠に潜る夢を見た 紫陽花だけは手放さぬ雨
かくれんぼしたまま睡る春の宵
たわむほど孤独を吸った真夜中の 皮膚を水道水で洗った
月影は巨人の列を従えて ガードレールを夜で洗った
一枚の白紙となって横たわる 雨の降らない放課後の国
湖の底に沈んだ集落の 末裔なので地上は嫌い
トンネルの出口付近の横風が 木星に縞模様をつける
読点が羽毛のように散らばって 食い千切られた句点を撫でる
大いなる他人事だと水底で 籠のひしゃげた自転車を押す
ぼんやりと花蔭が伸び縮みする 事故多発地点の昼下がり
海に行く ふりして塗った日焼け止め バスの窓から見える交番
古井戸に蛍を放つ左手は 夜の重さを叩き割れない
朝刊を鍋敷きにする たましいを 使い切れないままの夕暮れ
火によれば裸は行き止まりでなく 雪を看取った鳥の避難所
目を開ける必要のない真夜中に 置き去りにした水中眼鏡
〈非正規〉はビルの谷間の坂道で パンク間近の自転車を漕ぐ
きしきしと言葉が積もる本棚は 雪降る夜のタワーの匂い
着ぐるみに吹き込む声が震えてた 薄れる虹に輪ゴムを飛ばす
幸せと分かる範囲で腕を振り サンタと渡る横断歩道
もう群れる必要はなく 空っぽのペットボトルに あだ名を付ける
前世でも苛められっ子だったから 洗面台で海月を洗う
ひとすじの想いで吹いた春風が ガードレールに残す筆跡
僕だけが 助からないといいのにな 避難訓練中に閉じた目
包帯がゆっくり濡れる 月光を剥がした波が骨に堪える
土に背を預けて眠る花びらと 駆け引きをした風の歯車
飛行機に取り残された青空で 妊娠線がゆっくり溶ける
鎖骨のくぼみをニットで覆ったら 今年の雪を住まわせてみる
プロペラは 空を裂かずに這い上がる 器用に拒絶する手のひらで
羊水にひらひら浮かぶ コンタクトレンズのひかり 芝生に漏れて
血管をのぼれば海へ辿り着く 途中で捨てた折りたたみ傘
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